複数のモバイル端末でネットワークを構築できるインフラレス通信技術

Wi-Fi環境を利用したデータ通信を行うには、通常であれば、無線ルータなどの通信機器を中継する必要があります。

しかし、パソコンや、スマートフォンなどの通信端末同士が直接Wi-Fiのネットワークで接続すればどうでしょうか?

現在、中継する機器がなくても、データのやり取りを直接行うことができる方法(P2P、ピア・ツー・ピアと呼びます。)として、Wi-Fi Direct(ワイファイ・ダイレクト)と呼ばれている、Wi-Fiの通信規格が利用されています。

 

このWi-Fi Directによるデータ通信は、あくまで2つの通信端末の間で、通信を行うことができる規格です。

もしも2つ以上の端末がある場合は、どうでしょうか?

 

理想から言えば、全くWi-Fi信号の届かないような環境、例えば地下のトンネルなどにおいて、等間隔に置いてある複数の通信端末が、ちょうどバケツリレーのようなイメージで、データを伝送することができないでしょうか?

最近、日本電気株式会社(略称、NEC)が開発に成功した「インフラレス通信技術」が、正に、そのような理想を形にしたものです。

 

インフラレス通信技術とは?

この新技術では、P2P通信によってデータを転送するWi-Fi Directの技術を利用することによって、50から200メートル毎に置いてある端末間で、即座にネットワークを作り上げることが可能です。

例えば、トンネルの一番奥の端末で撮影中の動画を、リアルタイムで各端末へ配信することが可能です。

 

また、このような利用形態では、データを中継している端末の位置が頻繁に変わることが予想されます。

そのような事態にも対抗できように、端末が移動しても、ネットワークを維持することができるような技術や、利用するWi-Fi信号の周波数帯が重なっても、通信を維持できるような技術も導入されています。

 

ネットワークの一員である通信端末の一部が、Wi-Fi信号の届かない場所へ移動した時は、接続の必要となる暗号キーを、それぞれの端末が、予め一時保存しておくことで、すぐに接続可能な他の端末へ再接続することが可能です。

そのような対応によって、ネットワークの切断を防ぐことができます。

このような場合に、別の端末へ再接続するまでの間隔は約1秒以内とのことです。

 

また、例えば動画を配信中に、一部の端末の接続に問題が発生した場合に備える機能もあります。

この場合は、同一の動画を保有している他の端末が、保存している映像情報のうち、接続が切断された端末が転送中であったものを自動的に転送するようになっています。

つまり適当に通信端末を配置しておけば、それらの複数の端末の間で、もっとも適した伝送環境が出来上がると言うことになります。

 

インフラレス通信技術の可能性

これまでであれば、ネットワークの構築など、とてもできなかったような状況であっても、この技術を利用することによって容易にWi-Fi環境を作り上げることが可能となります。

例えば、建設中の建物や、大規模災害の現場などでも、現場にいる人の持っているスマートフォンなどを経由した高速のデータ通信を行うなどの活用方法が考えられます。

 

その他にも、多数の利用者が集中することによって、一時的に、ネットワークに問題が発生しているような状況でも、そのようなネットワークの混雑に関係なく、快適な速度で、各自の端末へデータを送信することができる手法としても、高い利用価値があります。

 

 

この新技術には、既存のモバイル回線である3Gや、LTEの回線には、全く負担をかけることなく、独自のネットワークを利用して、データ通信を行うことができる、と言うメリットがあります。

災害発生時には、どうしても既存のモバイル回線へアクセスが集中することによって一時的に利用が制限されるような事態が起こりがちです。

また、最近開発された技術と言うこともあり、通信を阻害する可能性もある状況、例えば、利用する周波数の競合などにも上手に対応できるような仕組みを採用しています。

 

将来的には、現在一般的に利用されているWi-Fi環境が利用できなくなると、自動的に、この技術を利用するネットワークへ切り替える手法が望まれます。

そのような利用方法の開発によって、Wi-Fi環境を利用した接続方法の更なる発展が期待できます。

 

インフラレス通信技術のこれから

発表されたばかりの技術であっても、その利用できる分野が多数に登ることが容易に予想できる新技術です。

Wi-Fiに対応した無線親機も、その機種によっては、この技術のように、Wi-Fi信号が届かない場所へ、Wi-Fi信号を中継することができる機能を持っています。

 

しかし、そのような中継器を必要としないところが、この新技術の最も重要な部分です。

手元にある、スマートフォンなどの端末が、簡単な設定変更によって、中継器へ生まれ変わるようになる日は我々が思っているほど先のことではないでしょう。